INTRODUCTORY SELECTION

前野学芸員がやさしくアートを解説します。|入門50選_48 | 白縁油滴天目鉢

銀色に輝く模様が美しい

 

白縁油滴天目鉢(しろぶちゆてきてんもくはち)

 

 

―これは何ですか?         
抹茶茶碗です。でも、重要文化財の指定は鉢となっているので、現在の名前は「白縁油滴天目鉢」となっています。
茶碗よりも大きいために、鉢と名付けられたのでしょう。

 

―大きさはどれくらいですか?
口径14.8㎝、高さ7.5㎝です。

 

―抹茶茶碗はどのくらいの大きさですか?
天目茶碗の口径が12㎝くらい。高さは6㎝くらいです。ほんの少し大きいだけですが、ずいぶん大きく見えます。

 

―どこで作られたものですか?
中国北部河北省(かほくしょう)です。
窯は特定されていませんが、このような焼物を磁州窯(じしゅうよう)系と分類しています。
当時、中国北部は女真(じょしん)族が治める金王朝で、中国南部の王朝が南宋でした。

 

―いつ作られましたか?
12世紀と考えられています。

 

―誰が作りましたか?
作った人は分かりません。

 

―これは天目茶碗なのですか?
厳密には天目茶碗とは異なるものです。
同時代に中国南部で先行して作られた、福建省の建窯(けんよう)で焼かれた建盞(けんさん)などの天目茶碗を模して作られていますが、異なるところがあります。

 

―どこが違うのですか?
建盞は黒い土が使われ、高台付近に釉薬をかけずにつくり、黒い土が露(あら)わになっていますが、この碗は白い土で作られ、高台付近に鉄釉を塗ることで黒く見せ、建盞に似せています。また、碗の姿も丸みがあり穏やかです。

 

高台

 

―真似したということですね。サイズが大きいのはなぜですか?
わからないです。どういう使い方だったかもわかりません。

 

―この碗の特徴は?
見込(内側)と外側に花のような形の小さな結晶のような油滴が現れています。
内側全面と外側の上半分には黒い釉薬が二重にかかっています。二重にかかった部分にだけ油滴が無数に現れています。
口の部分に白い帯(白縁)があります。これは黒い釉薬をかけた後にその部分の釉薬を剥いで、白い釉薬を塗っています。

 

見込

 

―油滴とは何ですか?
器の表面に現れた銀色の模様です。
これを水面に油が浮いたように見立て、油滴と呼ばれています。

 

―なぜ重要文化財なのでしょう?
油滴がたくさん出ているからと思われます。河北で作られたもので、油滴が現れているものはあまりありません。

 

―この灰皿のような形のものは何ですか?
天目台(てんもくだい)といって天目茶碗をのせるための台です。
茶托のようなものです。
いつからセットになっているのかはわかりません。

 

天目台

 

―天目台とはなんですか?
茶碗をのせる台ですが、本来の用途は分かりません。天目台は中国で使われていたもので、天目茶碗や喫茶儀礼と共に日本にもたらされました。          
天目台は、無地の黒漆塗や朱漆に彫刻のあるもの、螺鈿で文様を表したものなど多種多様な種類があります。   
この台は中国で作られた屈輪(ぐり)文様で、通常の天目台とは異なり、脚部分が抜けておらず、底があります。

 

―一言でいうと?
大振りの碗で、内外に現れた小粒の油滴が見どころです。建盞のようなかっちりとした形ではなく、おおらかな姿が特徴です。

 

 

 

今回の作品:重要文化財 白縁油滴天目鉢(しろぶちゆてきてんもくはち)

員数 1個

時代 金時代 12世紀     

建窯の天目に倣って磁州窯系の窯で作られたと考えられています。高台から腰にかけて鉄化粧を施し、胴には黒釉が二重にかけられ、油滴が現れています。口縁部の白縁は白化粧で、同様の碗や鉢はいくつか伝世していますが、細かい油滴が全面に生じたものは類例がありません。

 

 

 

藤田美術館

明治時代に活躍した実業家、藤田傳三郎と息子の平太郎、徳次郎によって築かれた美術工芸品コレクションを公開するため、1954年に大阪に開館。国宝9件、重要文化財53件を含む世界屈指の日本・東洋美術のコレクションを所蔵。

 

前野絵里  

藤田美術館主任学芸員。所蔵する日本や東洋の古美術品に絡むものはもちろん、宗教、建築、歴史なんでも気になる。直接役立つことも役立たないことも体験体感することが一番と考えている。

INTRODUCTORY SELECTION