INTRODUCTORY SELECTION

前野学芸員がやさしくアートを解説します。|入門50選_50 | 曜変天目茶碗

人々を魅了する神秘の美

 

曜変天目茶碗(ようへんてんもくちゃわん)

 

 

―これは何ですか?
抹茶を飲むための茶碗で、天目茶碗です。                             

 

―天目茶碗とは何ですか?            
鎌倉時代、日本から中国へ留学した禅宗の僧侶(禅僧)は、浙江省の天目山(山岳の名称)周辺の、禅宗寺院で修行をしました。留学を終えた僧が持ち帰った茶碗が天目山から来た茶碗=天目茶碗となったと伝えられています。茶碗は中国のものですが、名前は日本でつけられました。     
また、持ち帰った茶碗が黒色をしていたため、派生して黒や褐色の釉薬を天目釉と呼びます。その後、色に関係なく天目茶碗としての一定の姿形をしている碗を「天目茶碗」と呼ぶようになりました。           

 

―どこで作られましたか?  
中国南部の福建省にある、建窯(けんよう)で作られたと考えられています。                  

 

―いつ作られましたか?    
南宋時代(12~13世紀頃)です。
その後はこのタイプの茶碗の需要がなくなり作られなくなります。                     

 

―誰が作りましたか?       
作った人は分かっていません。                                

 

―いつ日本に来ましたか?
はっきりと分かりませんが、曜変を含む多くの天目茶碗は鎌倉時代~室町時代の頃、日本へもたらされたと考えられています。                     
元時代(1271〜1368)、日本に向けて出港し、韓国沖で沈没した船の荷から青磁や天目茶碗が発見された例があります。が、そこから発見された天目茶碗は新品ではなく、全て使用痕のある古い作品でした。

 

―名前の曜変とはなんですか?      
茶碗の表面に現れている、青や緑色の斑紋を曜変と呼んでいます。曜の文字には光り輝く・星などの意味があり、見た目を表現した言葉だと思います。 
室町時代の『君台観左右帳記(くんだいかんそうちょうき)』という書物にも「曜変」と表記されています。窯の中で焼いている時に、突然起こる変化「窯変」にも通じる音です。

 

―何でできていますか?   
土で碗を作り、釉薬をかけて焼いています。
口には銀などの合金で作った覆輪(ふくりん)をかけています。

 

 

 

―美しい色合いですが、どのようにこの青や緑色は現れるのでしょう?
実はLED照明になって以前よりよく見えるようになりました。
なぜ黒い茶碗の表面に青や緑の斑紋が現れるのか、そのメカニズムは解明されていません。
現在、青や緑色は、固有色ではなく、光の反射で色が見える構造色ではないかと考えられています。 CDの表面と同じような色の見え方です。           
内側だけでなく、碗の外側にも現れています。

 

―どのように使われましたか?        
中国では南宋時代に色の白いお茶が飲まれていたので、茶碗はお茶の白さが引き立つ黒色が好まれました。現在でも日本では、抹茶を飲むために使います。           
天目台という茶卓のような台に載せて使います。

 

天目台

 

 

―天目台とは何ですか?
本来の用途は分かりませんが、中国で既に使われており、天目茶碗や喫茶儀礼と共に日本にもたらされました。    
天目台は、漆を塗ったものがほとんどです。無地の黒色や朱漆に彫刻のあるもの、螺鈿で文様を表したものなど多種多様な装飾が施されています。    
曜変天目の天目台は黒漆塗に、貝殻を用いた螺鈿(らでん)で装飾されています。文字や文様、花などが表現されています。          

 

―曜変天目茶碗はたくさんあるのですか?    
同じように青や緑の斑紋が見られる典型的な茶碗が4例あります(内国宝3、重文1)。これらは全てお茶を飲むことの出来る完品で、全て日本にあります。       
現在、中国に同種の茶碗は残っていませんが、発掘によって斑紋の現れた茶碗の破片が2例、2009年と2017年に見つかっています。         

 

―藤田美術館以前はどこにありましたか?     
大正7年に藤田家に入る前は、水戸徳川家にありました。水戸徳川家以前は徳川家康が持っていました。
徳川家康以前の所有者は分かっていません。            

 

―一言でいうと? 
室町時代の権力者から現代まで、青い斑文の美しさに魅了され続けています。制作技法が伝わっていないため、現物から制作の方法を辿るしかなく、多くの陶芸家が、より曜変天目に近いものを求めて制作し続けています。

 

 

 

今回の作品: 国宝 曜変天目茶碗(ようへんてんもくちゃわん)

員数 1個

時代 南宋時代 12~13世紀        

瑠璃色の曜変と呼ばれる斑紋は、まるで宇宙に浮かぶ星のように美しい輝きを放ち、品のある華やかさの中にも落ち着きがあります。土見せで小振りの削り高台から開いた形や、鼈口(すっぽんくち)と呼ぶ口縁のくびれが天目形の特徴です。この茶碗には腰付近に厚い釉溜まり、口縁に覆輪がみられます。徳川家康から譲り受けた水戸徳川家の売立の際、藤田家に伝わりました。

 

 

 

藤田美術館

明治時代に活躍した実業家、藤田傳三郎と息子の平太郎、徳次郎によって築かれた美術工芸品コレクションを公開するため、1954年に大阪に開館。国宝9件、重要文化財53件を含む世界屈指の日本・東洋美術のコレクションを所蔵。

 

前野絵里  

藤田美術館主任学芸員。所蔵する日本や東洋の古美術品に絡むものはもちろん、宗教、建築、歴史なんでも気になる。直接役立つことも役立たないことも体験体感することが一番と考えている。

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