INTRODUCTORY SELECTION

前野学芸員がやさしくアートを解説します。|入門50選_47 | 古井戸茶碗 銘 老僧

秀吉から織部へ風格ある茶碗

 

古井戸茶碗 銘 老僧(こいどちゃわん ろうそう)

 

 

―これは何ですか?          
抹茶を飲むための茶碗です。ただし、抹茶を飲むために作られた器ではありません。

 

―どこで誰が作ったものですか?
朝鮮半島で作られましたが、作った人は分かりません。
以前は焼いた窯が分からないと言われてきましたが、最近の調査により、朝鮮半島の熊川(ウンチョン)窯で井戸茶碗と同種の破片が確認されています。ですので、この窯で作られたのではないかと考えられるようになっています。

 

―いつ作られましたか?
16世紀と考えられています。

 

―抹茶を飲むための碗ではないとは、どういうことですか?
現地で使われる器として作られたと考えられています。経緯は分かりませんが、作られてすぐ日本にもたらされたと考えられます。
茶の湯(侘び茶)の茶碗(=抹茶茶碗)として取り上げられ、16世紀半ばには茶会で使われるようになり、現在に至っています。

 

―古井戸茶碗は井戸茶碗の古いものという意味ですか?

古井戸茶碗は井戸茶碗の中でも、少し小振りのものを指しています。小井戸茶碗という表記もあり、古と小の音が同じなので、古井戸茶碗と表記する場合もあります。ですから、古井戸も小井戸も同じ意味です。

 

―井戸茶碗の特徴は?
黄みがかった茶色の琵琶色、細かいひび(貫入 かんにゅう)が入っている、轆轤(ろくろ)目の横筋が見えている、高台が竹の節のような形状(竹節高台)である、高台周辺がイボイボしている(梅花皮 かいらぎ)、高台の真ん中が尖っている(兜巾 ときん)、器の内側に器を重ねて焼く際、かませた粘土の痕跡がある(見込の目跡)、が特徴です。
全部で7つあります。

 

見込

 

 

―どんな種類があるのですか?
井戸茶碗には大(おお)井戸、古井戸、青(あお)井戸、小貫入(こかんにゅう)などがあります。
大振りで堂々とした形で名物手と呼ばれる大井戸、小振りのものを古(小)井戸、他の井戸茶碗に比べて平たく青みのあるものを青井戸などと分類します。いずれも見た目です。

 

―井戸茶碗はなぜ「井戸」なのですか?
残念なのですが、なぜ井戸茶碗と呼ばれるようになったかは分かっていません。

 

―井戸茶碗はどんなところを見るといいのですか?
井戸茶碗は鑑賞するポイントが先ほどの7つの特徴です。
老僧は、高台周りの梅花皮、轆轤目、青みを帯びた枇杷色の釉薬などが特に見どころです。

 

高台

 

 

―誰が持っていたのですか?
日本にいつもたらされたのか、なぜもたらされたのか分かりません。
この茶碗を持っていた人で、現在伝えられている最も古い人は、豊臣秀吉です。秀吉は古田織部に与えています。織部以後、磯田助左衛門、海保元太郎、水戸徳川家。水戸徳川家の売立で藤田平太郎が落札しました。国宝の曜変天目茶碗と一緒に落札されましたが、曜変天目より高価だったそうです。

 

―老僧の銘は誰がつけたのですか?
古田織部と言われています。
箱に書かれた「老僧 御茶碗」の文字が古田織部の筆跡と伝わっています。

 

―老僧の理由はなんですか?
正確なところは分かりませんが、お茶碗の表面に現れている斑紋が老人の肌のようである、どっしりとして風格のある様子が威厳のある老僧のようであるなどと言われます。

 

―井戸茶碗はたくさん残っているのですか?
今でもたくさん残っています。
茶人に好まれた茶碗として「一井戸二萩三唐津」という言い回しがあるほど人気があります。
濃茶なら井戸茶碗というほど格式が高い茶碗です。

 

―一言でいうと
どっしりと太く大きな高台が、他の井戸茶碗と異なる大きな違いのひとつです。そこに現れた梅花皮の見事さがこの老僧の最大の特徴であり見どころです。

 

 

 

 

今回の作品:古井戸茶碗 銘 老僧(こいどちゃわん ろうそう)

時代 高麗時代 16世紀   

重厚で枯れた様子や、茶碗の内外に見られる斑紋が老人の肌のように感じられることなどから、豊臣秀吉より拝領した古田織部によって老僧と銘が付けられました。堂々とした大振りの高台に美しく表れた梅花皮が見どころです。

 

 

藤田美術館

明治時代に活躍した実業家、藤田傳三郎と息子の平太郎、徳次郎によって築かれた美術工芸品コレクションを公開するため、1954年に大阪に開館。国宝9件、重要文化財53件を含む世界屈指の日本・東洋美術のコレクションを所蔵。

 

前野絵里  

藤田美術館主任学芸員。所蔵する日本や東洋の古美術品に絡むものはもちろん、宗教、建築、歴史なんでも気になる。直接役立つことも役立たないことも体験体感することが一番と考えている。

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