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学芸員がやさしくアートを解説します|饕餮禽獣文兕觥

古代中国のデキャンタ?

 

―これは…なんですか?

兕觥(じこう)という種類の青銅器です。怪獣を模した蓋と大きな把手が特徴です。紀元前17~11世紀に中国で作られました。

 

―どんな使い方ですか?

兕觥は酒器として使われました。といっても普段からお酒を飲むために使うわけではなく、祭礼のための道具と考えられます。

 

―なんだか中国っぽい感じの柄に見えます。

雷紋はラーメン丼でもおなじみの模様ですね。そこみると確かに中国っぽいのかも。全身いろいろな模様があって面白いです。

 

 

―いろんな動物がいますがなんですか?山羊とか?なんか蛇とか龍にみえるやつもいます。

山羊の角に牛の顔を持ったこの怪獣は饕餮(とうてつ)と言います。中国の伝説上の生き物ですね。他には、牛のように見える動物や、おっしゃる通り龍とか。蝉もいます。かなり大きくミミズクがいるんですが…わかります?

 

 

―実際のサイズは?

高さは33cmくらいです。私のイメージの中ではもっと大きい感じがしていたんですが、いかがでしょう?

 

―藤田さんはなぜこれを買ったのでしょう

置物として使いたかったようで、わざわざ台座が付ついています。書斎などにおいたか、煎茶会に使ったか、そのあたりを目的として購入したと考えられます。実は、関西の数寄者の中で青銅器が流行る時期があるんですよ。

 

―青銅器ブーム?

そうなんです。十八会という関西にいる数寄者たちの集まりがあって、藤田傳三郎もメンバーの1人でした。ある会でそれまであまり使われてなかった青銅器を展観席に並べた人がいたんです。それが住友財閥15代目の住友春翠です。これに参加者たちは大いに感心し、青銅器人気が高まりました。もしかしたらこのあたりが蒐集のきっかけになったかも…なんて想像したくなりますが、証拠はありません。

 

―青銅器はいつごろから鑑賞されているんですか?

日本では、江戸時代には青銅器を鑑賞していたようで、日本で模造品が作られることもありました。中国でも、文人と呼ばれる知識階級を中心に愛好されました。理想的な政治がおこなわれていた古い時代への憧れを抱いて、鑑賞していたと言います。

 

―兕觥ってたくさんありますか?それとも珍しい?

たくさんといってもいいと思います。日本でも、もちろん中国でも、欧米でもいろいろな美術館・博物館が持っています。模様が色々違うので面白いですよ。インターネットでも検索するとたくさんの画像が出てきますので是非見てみてください。

 

この兕觥の特徴はなにかありますか

多くの兕觥は丸い台座のような基底部があって、そのまま置けるんですけど、この兕觥は4本足+龍のしっぽで立っています。この形の兕觥はあまりないので、珍しい特徴と言っていいと思います。

 

ひとことでいうと

古代の人たちが祭礼に使った、全身文様だらけの酒器。これを使ってお酒を飲んでみたいですか?

 

 

饕餮禽獣文兕觥

製作年代:殷時代 紀元前17~11世紀

員数:一個

法量:高33.3cm 長30.1cm 横幅15.2cm

 

饕餮やミミズクが大きく鋳出された身に大きな把手が付けられ、怪獣を模した蓋がある兕觥と呼ばれる酒器である。祭礼の際に酒を蓄える杯として用いられたと考えられる。全身を埋めつくように様々な動物や雷紋があらわされる。四脚で体を支える兕觥は類例があまりなく、貴重と言える。

 

藤田美術館

明治時代に活躍した実業家、藤田傳三郎と息子の平太郎、徳次郎によって築かれた美術工芸品コレクションを公開するため、1954年に大阪に開館。国宝9件、重要文化財53件を含む世界屈指の日本・東洋美術のコレクションを所蔵。

 

今回の学芸員:國井星太

藤田美術館学芸員。きれいなものを見るのとおいしいものを食べる(飲む)のが好き。美術以外にも哲学、食文化、言語学…と興味の範囲は広め。専門は日本の文人文化。最近読んで面白かった本:佐藤信夫『レトリックの意味論』

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